「この人」で良いのだろうか?保護動物の里親選びで私が悩んだこと
保護動物の里親選び、その基準とボランティアの葛藤
保護活動を続ける中で、多くの動物たちとの出会いと別れを経験してきました。新しい家族に迎えられる動物たちの姿を見るのは、活動の中でも最も大きな喜びの一つです。しかし、その喜びの裏側には、常に重い責任と内面の葛藤が伴います。それは、里親候補者の中から、その子にとって「最良」と思える家族を選ぶというプロセスです。
「この人」で良いのだろうか。 里親募集を開始してから、応募者の方々とお話しさせていただくたびに、この問いが頭の中を駆け巡ります。
理想と現実の間で揺れる里親選び
私たちは、保護動物たちが二度と辛い経験をしないよう、様々な基準を設けています。家族構成、住環境、留守番時間、収入、過去の飼育経験など、客観的な情報に基づいて判断しようと試みます。書類審査を通過した方とは、直接お会いしてお話しする機会を設けます。写真や文章だけでは分からない、その方の動物に対する愛情の深さ、価値観、そして何よりその子との相性を肌で感じ取ろうとします。
多くの応募者の方々は、本当に素敵な方ばかりです。熱意を持って話を聞いてくださり、質問にも真摯に答えてくださいます。だからこそ、判断は一層難しくなります。「良い人」であることと、「その動物にとって最良の家族」であることは、必ずしも一致しないからです。
例えば、元気いっぱいの若い子には、一緒に遊ぶ時間や体力のあるご家族が良いかもしれません。逆に、高齢や疾患を抱える子には、静かで穏やかな環境と、手厚いケアをしてくださる方が適している場合が多いです。私たちは、目の前にいる動物の性格、過去の経験、そして将来的な健康状態などを総合的に考慮し、どの環境がその子にとって最も幸せなのかを必死に考えます。
時には、条件は完璧に見えるのに、何となく違和感を覚えることもあります。逆に、条件だけ見れば少し不安があっても、お話ししているうちにこの方なら大丈夫かもしれない、と感じることもあります。経験を重ねるほど、客観的な基準に加え、「動物がその家族と一緒にいる姿を想像できるか」「何か問題が起きたときに、この方なら真摯に向き合ってくれそうか」といった、言葉にならない直感に頼る部分も出てきます。
しかし、この直感こそが、判断をさらに複雑にします。自分の直感は本当に正しいのだろうか。感情に流されてはいけない、客観的に見なければ、という理性との間で常に揺れ動きます。
断ることのつらさ、そしてつきまとう不安
複数の素晴らしい候補者の中から一人を選ばなければならないとき、そして、残念ながらお断りしなければならないとき、ボランティアは深い苦痛を感じます。応募してくださった方々は、保護動物を迎えたいという温かい気持ちを持っています。その気持ちに応えられないこと、時には感謝の言葉と共に寄せられた応募を断らなければならないことは、本当に心苦しい作業です。
お断りした方から、落胆や、時には残念な言葉をいただくこともあります。私たちの基準が理解されず、不信感を抱かれてしまうこともゼロではありません。しかし、これも動物の未来を守るための必要なプロセスだと、自分に言い聞かせるしかありません。
そして、無事里親さんが決まり、動物が新しいお家へ出発した後も、すぐに安堵できるわけではありません。「この選択で本当に良かったのだろうか」「何か問題は起きていないだろうか」という不安が、しばらくの間つきまといます。里親さんからの近況報告で、動物が幸せそうにしている姿を見るまで、その不安は完全に消えることはありません。
これは、私たちがその動物の命と未来に対し、大きな責任を感じているからこそ生まれる感情だと思います。一時の感情や印象だけで決めてしまい、もし動物がまた不幸な目に遭うようなことがあれば、それは私たちの責任だと強く感じています。
この困難に向き合い続けるために
里親選びにおけるこの悩みや葛藤は、保護活動を続ける限り、おそらく完全に消えることはないでしょう。しかし、この困難なプロセスに向き合い続けるために、私が大切だと感じる点がいくつかあります。
一つは、「完璧な里親」はいないという現実を受け入れることです。それぞれの家族に良い面もあれば、懸念される面もあります。その中で、目の前の動物にとって、現時点で最もリスクが少なく、最も幸せになれる可能性が高い選択をするしかありません。最善を尽くすことと、完璧を目指すことは違うのだと理解する姿勢が大切です。
次に、自分一人で抱え込まないことです。他の経験豊富なボランティアと情報や意見を交換することは、客観的な視点を得る上で非常に有効です。それぞれの経験や価値観に基づいた意見を聞くことで、自分だけでは気づけなかった側面に気づかされたり、判断に迷ったときの背中を押してもらえたりします。
また、里親候補者の方々とのコミュニケーションを通じて、信頼関係を築く努力をすることも重要です。一方的に審査するのではなく、お互いを理解し、この子の幸せのために共に考えたいという姿勢を示すことで、より正直な情報交換ができるようになります。
最後に、この里親選びの難しさも、命のバトンを渡すという責任の一部だと認識することです。簡単なことではないからこそ、私たちは真剣に向き合い、悩み、考え抜きます。そのプロセスがあるからこそ、無事譲渡できた時の喜びもひとしおであり、動物たちの新しい生活を心から祝福できるのだと思います。
最後に
保護動物の里親選びは、美談だけでは語れない、ボランティアの内面を深くえぐるようなプロセスです。常に「本当にこれで良いのだろうか」という問いと向き合いながら、私たちは一つ一つの命に対し、最善を尽くそうともがいています。
この悩みや葛藤は、活動の厳しさの一端です。しかし、この困難なプロセスを乗り越えた先に、動物たちが新しい家族のもとで心穏やかに過ごす姿があります。その姿こそが、私たちがこの活動を続ける何よりの理由であり、この重い責任と向き合い続けるための原動力となっているのです。完璧な答えはないかもしれませんが、一つ一つの命のために悩み、考え抜くこと。それが、私たちができる、そしてすべきことだと信じています。