保護活動の本音

保護動物の「困った行動」と向き合う日々。試行錯誤と見えてくる限界

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保護動物の「困った行動」は、活動において避けて通れない課題です

保護活動を続けていると、様々な背景を持つ動物たちと出会います。その中には、過去の経験や環境が原因で、いわゆる「困った行動」を示す子も少なくありません。吠え癖がひどい、人や他の動物を怖がる、噛みつきや唸りがある、トイレの場所を覚えない、破壊行動をする…。

彼らが新しい家族と幸せに暮らすためには、こうした行動を改善することが重要だと、私たちは考えます。それが譲渡への一番の近道だと信じて、試行錯誤を始めるのです。ですが、この「困った行動」への対応こそが、保護活動の厳しさ、そしてボランティア自身の無力感を痛感させられる大きな壁の一つだと感じています。

理想は高く、現実は厳しい。試行錯誤の日々

初めて問題行動に直面した頃は、「愛情と正しい知識があれば、どんな行動でも改善できるはずだ」と、根拠のない自信を持っていたように思います。インターネットや書籍で情報を集め、先輩ボランティアに相談し、自分なりにトレーニングを試みました。

例えば、分離不安がひどく、ケージに入れると鳴き叫び、破壊行動を繰り返す犬。少しずつ留守番の練習をしたり、安心できる場所を作ったりと試みましたが、一向に改善の兆しが見えず、夜中に近所迷惑になっていないか心配で眠れない日々が続きました。

また、人間不信で触ることすら難しい猫。根気強く時間をかけて距離を縮めようと努力しましたが、一向に心を開いてくれず、最低限の世話をするのが精一杯でした。怪我をさせてしまうのではないかという恐怖もありました。

あらゆるアプローチを試み、一時的に改善が見られることもありますが、根本的な解決に至らないケースも多いのです。専門家であるトレーナーさんや獣医行動診療の先生に相談することもありますが、そこにかかる費用も大きな負担となりますし、予約が取りづらい、通うのが難しいといった物理的な壁もあります。

限界を知る。そして、見えてくるもの

活動を数年続ける中で、私は一つの現実を突きつけられました。それは、「どんな努力をしても、すべての行動問題を解決できるわけではない」という事実です。

もちろん、多くの動物たちは適切なケアや環境調整、トレーニングによって素晴らしい変化を見せてくれます。彼らが自信を取り戻し、穏やかな表情を見せてくれたときの喜びは、何物にも代えがたいものです。

しかし、中には、持って生まれた気質や過去の強烈なトラウマ、あるいは未知の要因によって、どうしても改善が難しい行動が存在します。そういったケースに直面したとき、自分自身の知識やスキル、時間、資金、そして精神的なキャパシティの限界を痛感するのです。

「もっとこうすればよかったのだろうか」「私のやり方が悪かったのではないか」と自責の念に駆られることもあります。そして、「この子の行動が改善しなければ、新しい家族は見つからないのではないか」という不安が募り、焦りを感じます。

他のボランティアとの間で、対応方針について意見が分かれることもあります。「もっと厳しくしつけるべきだ」「いや、愛情をもって接するべきだ」「これは専門家に任せるしかない」「いや、自分たちで頑張ろう」といった議論になり、人間関係の難しさを感じる場面もありました。正解が見えない中で、それぞれの経験や考えがぶつかり合うのは避けられないことかもしれません。

限界を受け入れ、その子らしさと向き合う

こうした試行錯誤と葛藤を経て、私は一つの考えに至りました。それは、「すべての行動を『問題』として排除しようとするのではなく、その子の個性や背景として理解し、折り合いをつけることも必要ではないか」ということです。

もちろん、人や動物にとって危険な行動や、衛生上・生活上問題となる行動は、最大限の努力で改善を目指すべきです。しかし、どうしても難しい場合は、その行動を受け入れた上で、その子の特性に合った環境や家族を見つけることに焦点を切り替えることも、大切な選択肢だと考えるようになりました。

例えば、他の犬が苦手な子には、一頭飼いを希望する家庭を探す。特定の音にパニックになる子には、静かな環境を提供できる家庭を探す。完璧な「良い子」に変えることだけがゴールではなく、その子の「困った行動」も含めて愛し、共に暮らしてくれる人を探すことも、私たちの役割なのではないでしょうか。

この考えに至るまでには、多くの時間と悩みがありました。「これで本当にこの子の幸せに繋がるのだろうか」と迷うことも少なくありません。ですが、無理に理想を追い求めすぎて、動物自身やボランティアが疲弊してしまうよりも、現実を受け入れ、今できる最善を尽くすことの方が、持続可能な活動には必要だと感じています。

また、こうした経験を通じて、自分自身の心のケアの重要性も学びました。完璧を目指しすぎて、自分を追い詰めないこと。できないこと、限界があることを認め、誰かに相談したり、休憩を取ったりすること。これは、動物を救うためにも、自分自身を守るためにも不可欠なことです。

課題と向き合い続ける先に

保護動物の「困った行動」との向き合いは、厳しく、時に心折れる経験です。思うようにいかない現実や、見えてくる限界に、無力感や葛藤を感じることも少なくありません。

ですが、この課題から目を背けず、試行錯誤を続ける中で、私たちは多くのことを学びます。動物たちの持つ回復力や適応力、そして彼らの繊細な心に触れ、理解を深めることができます。また、人間の側の「完璧さ」へのこだわりを手放し、多様性を受け入れる寛容さを養う機会にもなります。

全ての行動問題を解決することはできないかもしれません。しかし、その子のありのままを受け入れ、適切なサポートを提供することで、彼らが少しでも穏やかに、安心して過ごせるようになるなら、それは大きな一歩です。

課題を抱える動物たちも含めて、一頭でも多くの命を救い、幸せに繋げるために。私たちはこれからも、試行錯誤を続けながら、この厳しい現実と向き合っていきます。そこには、困難と共に、彼らの小さな変化を見つけたときの喜びや、深い絆が生まれる瞬間が確かに存在しているのですから。