保護動物の「個性」とどう向き合うか。預かりや譲渡で直面するリアル
動物保護の活動に関わって数年が経ちました。この活動の中で痛感するのは、保護される動物たちが一頭たりとも同じではないということです。それぞれの動物が持つ個性、過去、そして抱えるトラウマ。これらが、活動の喜びであると同時に、大きな課題となって私たちの前に立ちはだかります。特に、一時預かりや譲渡というプロセスにおいて、この「個性」との向き合い方は活動のリアルそのものです。
期待と異なる「個性」との出会い
保護されたばかりの動物は、必ずしも人がイメージするような「懐っこい」「従順な」姿をしているわけではありません。中には、人間への不信感が強く、触れることも難しい子や、特定の音や動きに過剰に反応してしまう子、他の動物と全く馴染めない子もいます。
以前預かった猫は、見た目は愛らしくおとなしそうに見えましたが、実は極度の人間不信で、ケージから出ることもままなりませんでした。別の犬は、普段は穏やかなのに、特定の状況で攻撃的な一面を見せることがあり、預かり家庭では細心の注意が必要でした。こうした予測不能な行動や、マニュアル通りにいかないケアは、ボランティアにとって精神的にも肉体的にも大きな負担となります。
もちろん、こうした行動の多くは、彼らがこれまでの生活で経験した過酷な環境や、適切な社会化がなされなかったことによるものです。頭では理解していても、日々直面する困難さに、「なぜこの子はこんなに難しいのだろう」と戸惑ったり、理想通りに進まない状況に苛立ちや無力感を感じたりすることもあります。
譲渡における「個性」の壁
一時預かりの大きな目的の一つは、新しい家族のもとへ送り出すことです。しかし、動物の個性は、譲渡のプロセスにおいてしばしば大きな壁となります。
譲渡会では、明るく社交的な子にはすぐに声がかかりますが、臆病な子や特定の癖がある子は、なかなか希望者とご縁がありません。私たちは、その子の良いところはもちろん、抱えている課題や特別なケアが必要な点も正直に伝えなければなりません。しかし、保護動物の個性や特性を全て理解し、受け入れてくださるご家庭を見つけるのは容易なことではありません。
「この子には、小さなお子さんのいない家庭が良いだろう」「静かな環境でなければストレスを感じてしまう」「他の犬とは暮らせないタイプだ」など、その子の幸せを願うからこそ、譲渡条件は細かくなります。それが、結果的に譲渡の機会を減らしてしまうのではないか、このまま一生涯、仮の住まいである預かり家庭を転々とするのではないか、という不安が常に付きまといます。
また、希望者との相性を見極めるのは非常に難しく、面談だけでは分からないことも多々あります。残念ながら、トライアルがうまくいかずに戻ってきてしまうケースもあり、その度に動物も私たちボランティアも深く傷つきます。
個性を受け入れ、向き合うということ
こうした経験を通じて、私が学んだのは「全ての動物に完璧を求めない」ということです。保護活動の目標は、動物たちに安全で愛情ある家庭を提供することですが、そのためには、彼らの「あるがままの姿」、つまり個性や課題も含めて受け入れる覚悟が必要です。
預かりや譲渡の難しさに直面したとき、私は他の経験豊富なボランティアや、必要であれば獣医師やドッグトレーナーといった専門家の意見を聞くようにしています。一人で抱え込まず、課題を共有し、多角的な視点から解決策を探ることは、自分自身の負担を軽減し、より良い方向へ進むための重要なステップです。
また、完璧な結果ばかりを求めすぎず、小さな進歩にも目を向けることが大切だと感じています。例えば、最初は触れなかった子がそっと手を舐めてくれた、他の犬への反応が少し和らいだなど、その子自身のペースでの成長を見守ることに喜びを見出すようになりました。
厳しさの中に確かな希望
保護動物の個性との向き合いは、確かに困難が多く、悩みが尽きない道のりです。理想と現実のギャップに苦しみ、自分の無力さを感じることもあります。しかし、そうした厳しさの中にこそ、この活動の本当の深さがあるのかもしれません。
動物たちの抱える課題を理解し、彼らのペースに寄り添い、最善の方法を探求すること。そして、たとえ小さな一歩であっても、その成長を間近で見守れること。これらは、何物にも代えがたい経験であり、私たちボランティア自身の人間的な成長にも繋がっていると感じています。
全ての動物を同じように扱うことはできません。それぞれの個性を受け入れ、その子にとって何が一番幸せなのかを問い続けること。これが、保護活動のリアルな現場で私たちに求められていることだと強く感じています。困難を乗り越え、信頼関係を築き、動物たちが心を開いてくれた時の喜びは、活動を続ける上でのかけがえのない原動力となっています。