保護動物との適切な距離感。活動を続ける中で向き合う情と心の距離
はじめに
動物保護ボランティアとして活動を続ける中で、私たちは多くの動物たちと出会います。それぞれの子に物語があり、個性があります。共に過ごす時間が増えるにつれて、自然と情が湧いてくるのは当然のことです。この情が、困難な状況でも活動を続けるための大きな原動力となることもあります。しかし同時に、この情が深すぎるあまり、活動が辛くなってしまったり、心をすり減らしてしまったりすることもあります。
特に活動経験が数年となり、様々な状況を経験するにつれて、動物との心の距離感の取り方について悩むことが増えました。情を持つことの重要性と、それに伴う精神的な負担にどう向き合っていくか。今回は、私自身の経験を通して感じている、この難しさについてお話ししたいと思います。
深まる情と、それに伴う心の揺れ動き
私が保護活動を始めた頃は、目の前の動物たちを救いたいという一心で、情の赴くままに全力で関わっていました。病気の子がいれば夜通し看病し、人馴れしない子には文字通り寝食を忘れて向き合った時期もあります。動物たちが心を開いてくれたり、元気になっていく姿を見たりすることは、何物にも代えがたい喜びでした。
しかし、別れを経験するたびに、その喜びと同じくらい、あるいはそれ以上の喪失感に打ちひしがられるようになりました。大切にケアしてきた子が新しい家族のもとへ旅立つのは喜ばしいことのはずなのに、まるで自分の手足がもぎ取られたかのような寂しさを感じたり、もっと何かできたのではないかと後悔の念に囚われたりすることもありました。特に、懸命に看病したにも関わらず、残念ながら看取ることになった子の場合は、その悲しみは言葉にできませんでした。
また、情が深まるあまり、冷静な判断ができなくなる場面にも直面しました。例えば、医療が必要な状況で「この子を失いたくない」という気持ちが先行し、団体の限られた資金の中で最適ではない高額な治療を選んでしまそうになったり、特定の動物に固執しすぎて、他の動物へのケアが疎かになりかけたりしたこともありました。幸い、周囲のボランティアが冷静にアドバイスをくれたことで事なきを得ましたが、自分の感情が活動の質に影響を与えうることを痛感した出来事でした。
適切な距離感とは何か？
これらの経験から、動物への情は大切にしつつも、「適切な距離感」が必要だと考えるようになりました。では、その「適切な距離感」とは一体何でしょうか。それは決して、動物への愛情を否定したり、心を閉ざしたりすることではありません。むしろ、愛情を持ちながらも、感情に振り回されすぎず、冷静に状況を判断し、活動を継続していくための心の持ちようだと今は考えています。
私なりに見出した距離感の取り方の一つは、「自分の役割」を意識することです。私たちは保護ボランティアとして、動物たちが新しい、温かい家族と出会うまでの「つなぎ手」です。その短い期間で、最大限のケアと愛情を提供することに集中する。その子の人生の全てを背負うのではなく、「今、自分にできること」に全力を尽くす、と割り切るように意識しています。もちろん、頭では分かっていても心が追いつかないことの方が多いのですが、この意識を持つことで、過度な責任感や喪失感から少し距離を置けるように感じます。
また、自分自身の感情や心の状態を定期的に「点検」することも重要です。知らず知らずのうちにストレスや疲労が溜まり、感情のコントロールが難しくなっていることがあります。定期的に活動から離れる時間を作ったり、信頼できる他のボランティアや友人に話を聞いてもらったりすることで、自分の状態を客観視することができます。同じような悩みを抱えるボランティアと話をすることは、自分だけではないのだと安心できますし、共感し合えることで心が救われることがあります。
考察と今後の展望
動物保護活動における「情」は、私たちを突き動かす原動力であり、活動の温かさの源です。しかし、その裏には常に、感情的な負担や葛藤が伴います。特に、別れや看取り、あるいは困難な状況に直面した際には、心が折れそうになることも少なくありません。
活動を長く続けていくためには、動物への情と同じくらい、自分自身の心を守り、ケアしていくことが不可欠です。適切な距離感を保つこと、自分の限界を認識すること、そして何よりも、一人で抱え込まずに周囲と支え合うこと。これらが、私たちが活動を継続し、より多くの命を救うための鍵になると信じています。
感情のコントロールは難しく、今でも心が揺れ動くことは多々あります。しかし、動物たちのために自分ができる最善を尽くしつつ、自分自身の心も大切にするというバランスを、これからも模索し続けていきたいと考えています。
まとめ
保護動物との関わりで生まれる深い情は、私たちの活動の大きな支えとなります。一方で、その情が深まるほど、別れや困難な状況に直面した際の精神的な負担も大きくなります。活動を長く続けるためには、愛情を持ちながらも、自分自身の心を守るための「適切な距離感」を学ぶことが重要です。
それは、自分の役割を意識し、感情に振り回されすぎず冷静な判断を心がけること、そして何よりも、自分自身の心の状態に気づき、必要であれば休息を取り、周囲と支え合うことだと感じています。活動の厳しさの中に、動物たちとの温かい交流や、そこから得られる自身の成長を見出しながら、これからも一歩一歩進んでいきたいと考えています。