譲渡成功だけがゴールじゃない。保護活動で向き合う譲渡後のリアルと不安
譲渡後の見えない不安について
保護活動における最大の喜びの一つは、保護した動物が新しい家族のもとで幸せに暮らす姿を見ることです。長い時間と手間をかけて健康を取り戻し、人馴れさせ、その子の全てを受け入れてくれる家族を見つけ出す。譲渡が決定し、送り出すときの達成感は、活動を続ける大きな原動力となります。
しかし、保護活動は、動物を新しい家族に託したからといって全てが終わるわけではない、という現実を私は何度も経験してきました。譲渡は、一つの区切りではありますが、同時に新たな始まりであり、そこには見えない不安や課題が常に付きまといます。
譲渡後のリアルな体験談
数年前のことです。長い間保護していた、少し臆病な性格の犬が、ようやく信頼できるご家族と巡り合うことができました。トライアル期間中も慎重に様子を伺い、ご家族とも密に連絡を取り合って、双方に確信が持てた上での正式譲渡でした。送り出した時は、本当に嬉しくて、肩の荷が下りたような気持ちでした。
ところが、譲渡から数週間後、ご家族から連絡がなくなってしまったのです。お約束していた定期報告の連絡もありませんでした。最初は「新しい生活に慣れるのに忙しいのだろう」と自分に言い聞かせましたが、日数が経つにつれて、心配はどんどん大きくなりました。何か問題が起きたのではないか、体調を崩していないか、環境に馴染めずストレスを感じていないか…。あらゆる可能性を考えてしまい、夜も眠れなくなったほどです。
結局、思い切ってこちらから連絡を取ってみると、幸いにも大きな問題は起きていませんでした。単に、ご家族が報告の必要性を感じていなかった、という理由でした。拍子抜けすると同時に安堵しましたが、この一件は私に深い不安を残しました。どれだけ譲渡前に確認し、信頼関係を築いたつもりでも、譲渡後の生活は私たちの目の届かない場所で営まれる。その見えない部分に、私たちは常に不安を感じ続けるのだということを痛感しました。
他にも、譲渡後数ヶ月経ってから、以前は全くなかった健康問題が発覚したり、飼育環境について譲渡条件とは異なる状況が分かったり、最悪の場合は引き取りを打診されたりといった事例も、残念ながら耳にすることがあります。その度に、譲渡に関わった者として、自分たちの判断は正しかったのか、もっと何かできたことはなかったのかと、自問自答を繰り返します。動物が幸せになることを願って活動しているのに、その願いが揺らぐような現実に直面するのは、精神的に非常に大きな負担となります。
譲渡後の不安とどう向き合うか
このような譲渡後の不安や課題は、保護活動につきものなのかもしれません。私たちの責任感の強さの裏返しとも言えます。では、この不安とどう向き合っていけば良いのでしょうか。
一つは、完璧を目指しすぎないことだと思います。どんなに準備をしても、譲渡後の生活で予期せぬ出来事が起こる可能性はゼロではありません。その全てをコントロールすることは不可能です。問題が起きた時に、自分自身や他のボランティアを過度に責めるのではなく、まずは状況を冷静に把握し、改善のために何ができるかを考える姿勢が大切だと、経験から学びました。
また、組織としての譲渡後フォロー体制の強化も重要です。定期的な報告をお願いするだけでなく、ご家族が気軽に相談できる窓口を設けたり、困った時に頼れる情報源を提供したりすることで、早期に問題を察知し、対応できる可能性が高まります。連絡が来ないご家庭へのアプローチ方法なども、ボランティア間で知恵を出し合うことができます。
そして何より、ボランティア同士で不安や悩みを共有することが、心のケアにつながります。譲渡後の心配事を抱え込まず、仲間に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。同じような経験をした仲間の言葉に、救われることも少なくありません。
まとめ
動物を新しい家族に送り出す「譲渡」は、保護活動における一つの大きな成功であり、多くの喜びをもたらしてくれます。しかし、その裏側には、譲渡後の動物たちの未来に対する見えない不安や、予期せぬ課題と向き合う現実があります。連絡が途絶える心配、健康問題の発覚、環境の変化への対応など、様々な要因が私たちの心をざわつかせます。
これらの不安は、私たちが一つ一つの命に対して真剣に向き合っている証拠でもあります。完璧な譲渡は難しいという現実を受け入れつつ、譲渡後のフォローアップ体制を工夫したり、何よりもボランティア間で支え合ったりすることで、この不安と向き合い、乗り越えていくことができると信じています。
譲渡した動物たちが、その新しい家で穏やかに、そして幸せに暮らしていると信じること。そして、もし問題が起きたとしても、自分たちだけで抱え込まず、チームとして最善を尽くすこと。この厳しさの中にこそ、保護活動の本当の深さと、私たちがこの活動から得られる学びや成長があるのだと感じています。