保護動物を「一時預かり」するということ。ボランティアが向き合う期待と現実のギャップ
保護動物を「一時預かり」するということ。ボランティアが向き合う期待と現実のギャップ
動物保護活動において、一時預かり(フォスター)ボランティアは非常に重要な役割を担っています。シェルターだけでは収容しきれない多くの動物たちが、一時預かりボランティアの家庭で心身を休め、人馴れしたり、医療ケアを受けたりしながら、新しい家族との出会いを待つことができます。
この「一時預かり」という言葉を聞くと、多くの方が「行き場のない動物を一時的に自宅に迎え入れ、お世話をして、素敵な家族を見つけるお手伝いをする」という、尊くやりがいのある活動をイメージされるのではないでしょうか。もちろんそれは間違いではありませんし、実際に動物たちが新しい人生を歩む姿を見る喜びは、何物にも代えがたいものです。
しかし、活動を続けていくうちに、当初抱いていた期待とは異なる現実や、予想もしなかった困難に直面することも少なくありません。今回は、私自身が一時預かりボランティアとして経験してきた、期待と現実のギャップ、そこから生まれた悩みや葛藤について、率直にお話ししたいと思います。
想定外の連続。期待と現実のギャップ
一時預かりを始める前、私は「ケージに慣れていて、トイレもできて、少し人見知りするくらいの子を預かるのだろう」と漠然と考えていました。活動団体のホームページなどで見る保護動物たちは、どこか落ち着いていて、飼いやすそうに見えたからです。
しかし、現実はそうではありませんでした。
初めて預かった子は、ケージどころか部屋の隅から全く動けず、ご飯も水も口にしない日が続きました。次に預かった子は、突然唸ったり飛びかかってきたりと攻撃的な一面を見せ、どう接していいか分からず途方に暮れました。さらに別のケースでは、見た目は元気なのに、預かり始めて数日後に突然体調を崩し、緊急で病院に駆け込むということもありました。
想像していた「お世話をして、新しい家族に繋ぐ」というシンプルな流れとは異なり、動物たちの抱える心の傷や、隠されていた体調不良、あるいは環境の変化への強いストレスといった、より深く複雑な現実に直面したのです。
「すぐに慣れてくれるだろう」「問題行動なんてないだろう」「きっとすぐにお声がかかるだろう」といった、活動前の淡い期待は、次々と打ち砕かれていきました。特に、問題行動をどう改善すれば良いのか、あるいは病院に連れて行くべきかどうかの判断など、自分一人の知識や経験では追いつかない状況に、強い無力感を感じることもありました。
悩み、迷い、そして情
こうした想定外の状況に直面するたび、悩みが尽きませんでした。
「私のやり方が間違っているのだろうか」 「もっと他の方法があるのではないか」 「この子には、私の家よりもっと良い環境があるのではないか」
特に困ったのは、活動団体との連携です。預かった動物の状況を正確に伝え、適切なアドバイスやサポートを受けることは、一時預かりボランティアにとって非常に重要です。しかし、団体側も多くの動物やボランティアを抱えているため、すぐに返信が来なかったり、情報が十分でなかったりすることもあります。自分一人で抱え込んでしまい、孤独を感じることもありました。
そして何より、避けては通れないのが、預かった動物への「情」です。どんなに問題行動があっても、体調が優れなくても、共に過ごす時間の中で情が湧くのは自然なことです。心を開いてくれた瞬間の喜び、体調が回復していく様子を見たときの安堵感は、大きなやりがいとなります。しかし、だからこそ、譲渡が決まった時の嬉しさと同時に、言いようのない寂しさや喪失感を感じるのです。「このままウチの子にしたい」という思いが頭をよぎり、一時預かりという役割との間で葛藤することもありました。
困難を受け入れ、歩みを進める
こうした様々なギャップや悩みを経験する中で、私が学んだことはいくつかあります。
まず、一時預かりは「完璧な状態の動物を預かる」活動ではないということです。多くの場合、動物たちは何かしらの事情を抱えています。その「事情」ごと受け入れ、その子にとって今何が必要かを考え、できる限りのことをすること。そして、自分の手には負えないことや、判断に迷うことは、一人で抱え込まずに率直に相談することの重要性を痛感しました。他の経験豊富なボランティアや代表に相談することで、思いがけないアドバイスをもらえたり、一人ではないと感じられたりするからです。
また、期待通りに進まないこと、計画通りにいかないことの方が多いと割り切ることも必要だと感じています。動物たちのペースに合わせ、小さな変化や成長を見つけて喜びに変える。理想とする状態にすぐにならなくても、諦めずに根気強く向き合う粘り強さも求められます。
そして、情が湧くこと、別れがつらいと感じることは、決して悪いことではないと自分に言い聞かせるようにしています。それは、それだけ真剣に動物と向き合った証拠だからです。そのつらさを乗り越えるために、譲渡が決まった子の幸せな未来を想像したり、次に待っている助けが必要な子に意識を向けたりと、自分なりの心の切り替え方を見つけることも大切です。
一時預かりというかけがえのない役割
一時預かりボランティアは、確かに大変なことも多く、時に心折れそうになることもあります。期待通りのスムーズな活動ばかりではなく、むしろ想定外の連続です。
しかし、私たちが向き合う現実の厳しさの先に、確かに存在する喜びがあります。それは、警戒心の塊だった動物がそっと手に触れてくれた瞬間だったり、食欲がなかった子がご飯を完食してくれた日だったり、そして何より、ずっとの家族と出会い、安心して新しい生活を始めている姿を見ることです。
一時預かりボランティアは、動物たちにとっての仮の家であり、休息の場所です。そして、新しい人生への架け橋となる、かけがえのない存在です。理想と現実のギャップに悩み、立ち止まりそうになったとしても、その役割の重みと、そこから得られる深い感動を胸に、これからも一歩ずつ歩みを進めていきたいと考えています。同じように一時預かりで悩みを抱えている方がいれば、あなたは一人ではないということを知っていただけたら、嬉しく思います。