保護活動の本音

「なぜこの子にはご縁がないのだろう」。長期在籍の保護動物と向き合う日々

Tags: 保護活動, ボランティア, 譲渡, 長期在籍, 感情

導入

動物保護ボランティアとして活動を続けていると、多くの動物たちとの出会いと別れを経験します。新たな家族のもとへ旅立っていく子たちの後ろ姿を見送るたび、安堵と喜びで胸がいっぱいになります。一方で、なかなかご縁に恵まれず、シェルターや預かり家庭での生活が長くなる「長期在籍」の動物たちもいます。

なぜ、この子にはご縁がないのだろう。他の子たちが次々と卒業していく中で、その子だけが取り残されているような感覚を抱くことがあります。特別な問題行動があるわけではない。健康状態に大きな問題があるわけでもない。それなのに、なぜかお声がかからない。そんな疑問や、もどかしさ、そして少しの焦りのような感情が、長期在籍の子たちと向き合う日々の中で生まれてきます。

長期在籍の子たちとの日々

我が家で、あるいは活動しているシェルターで、数ヶ月、時には数年にわたって一緒に過ごしている子がいます。彼らはもう、その場の環境にすっかり慣れていて、私たちボランティアにとっても家族のような、あるいは古くからの友人のような存在になっています。

最初のうちは、とにかく良いご縁を見つけてあげたい、早く新しい家族の元へ送ってあげたいという気持ちでいっぱいでした。ウェブサイトに写真を掲載する際も、動画を撮る際も、どうすればこの子の魅力が最大限に伝わるだろうかと試行錯誤を重ねます。しかし、どれだけ工夫しても、見学や面会につながっても、最終的には「今回は見送ります」という結果になることが続きます。

理由を尋ねてみても、「想像していたのと違った」「他の子に決めた」など、具体的な問題点があるわけではない場合が多いのです。そうすると、余計に「この子に何が足りないのだろうか」「私の伝え方が悪かったのだろうか」と、自分自身や動物のせいではないかと考えてしまうこともあります。

長期にわたって一緒にいると、情が深まるのは当然のことです。他の子が卒業するたび、「次は〇〇(長期在籍の子の名前)の番だね!」と声をかけますが、それがなかなか現実にならないと、期待すること自体が辛く感じられるようにもなります。この子を失うことへの恐れから、心のどこかで「ずっとここにいても良いんじゃないか」と思ってしまう自分と、いや、この子にはもっと広くて、愛情にあふれた、自分のだけの場所が必要なのだと考える自分との間で、葛藤が生まれます。

他のボランティア仲間と話していても、同じような悩みを抱えていることがよく分かります。「あの子には、なんでいい話がないんだろうね」「何か私たちにできることがあるはずなのに」と、皆が頭を悩ませています。個々の動物に対する思い入れが強いだけに、長期在籍という状況は、ボランティア全体の士気にも少なからず影響を与える現実があります。

長期在籍が教えてくれること

長期在籍の動物たちと向き合う日々は、確かに辛さや葛藤を伴います。しかし、そこから学べることも少なくありません。

まず、譲渡だけが保護活動の全てではないということを強く実感します。もちろん、新しい家族のもとで幸せになることは多くの保護動物にとって最良の形の一つでしょう。しかし、それが叶わないからといって、その子の命や存在の価値が損なわれるわけではありません。私たちが提供している「今」という時間、安全な場所、毎日の食事、体のケア、そして何よりも、人間からの愛情や安心感は、その子にとってかけがえのないものです。

彼らは、保護されるまでの過去、そして未来のご縁を待つ「今」を生きています。その「今」を、少しでも快適で、心穏やかなものにするために、私たちはそこにいるのだと気づかされます。彼らが私たちに見せてくれる無邪気な寝顔、甘えてくる仕草、信頼の眼差しは、私たちが提供できているものが確かにあることの証です。彼らは、私たちが思っている以上に、今の状況を受け入れ、その中で小さな幸せを見つけながら生きているのかもしれません。

また、長期にわたって一緒にいることで、その動物の個性や繊細な変化に気づきやすくなります。何が好きで、何が苦手か。どんな時に安心し、どんな時に不安を感じるか。そうした深い理解は、その子にとってより良い環境を整える手助けとなりますし、もし将来ご縁があった際には、新しい家族へ正確かつ詳細に情報を伝える上で非常に重要になります。

自分自身の感情と向き合うことも、長期在籍の子たちとの関わりの中で試されます。情が移りすぎることの危険性は理解していますが、彼らに愛情を注がずにケアを続けることは、私たちにはできません。大切なのは、感情に飲み込まれるのではなく、それを認識し、その上で自分自身の心の健康も守りながら活動を続けるバランスを見つけることだと感じています。他のボランティア仲間と率直に気持ちを話し合ったり、時には活動から意識的に離れる時間を持ったりすることも、長く続けるためには必要です。

まとめ

長期在籍の保護動物たちと向き合う日々は、「なぜ」という疑問や、見通しの立たない状況への不安、そして情が深まることによる複雑な感情など、多くの困難を伴います。しかし、その厳しさの先に、私たちは譲渡だけではない保護活動の深い意味や、命を支えることの尊さ、そして動物たちが私たちに教えてくれる今を生きることの大切さを学びます。

彼らとの時間は、私たちにとって特別なものです。いつか来るかもしれない別れを思いながら、しかし、今は彼らの「家」として、できる限りの安心と幸せを提供することに集中する。この経験を通じて、私たちはボランティアとしての成長だけでなく、人間としても大切な何かを得ているのだと感じています。全ての命に平等にチャンスが訪れるわけではない現実の中で、それでも目の前にいる命と真摯に向き合い続けること。それが、長期在籍の子たちが私たちに託しているメッセージなのかもしれません。