災害、そして保護活動。混乱の中で何ができるか、何をすべきか
導入
私たちの住む場所では、いつ何が起こるか分かりません。平穏な日常が、突然の災害によって一変してしまうこともあります。動物保護ボランティアとして活動していると、そうした予期せぬ事態が発生した際に、「動物たちはどうなるのだろうか」「自分には何ができるだろうか」という思いが強く心を占めるようになります。
実際に、大きな災害が起こった時、私はこれまで経験したことのない混乱と無力感に直面しました。テレビやインターネットから流れてくる甚大な被害の映像を見ながら、安全な場所にいる自分にできることの少なさを痛感したのです。同時に、被災地で取り残された、あるいは飼い主さんと離れ離れになってしまった動物たちのことを考えると、いても立ってもいられなくなる。この、突き動かされるような衝動と、現実の壁との間で、私は深く悩むことになりました。
混乱の中で直面したリアル
数年前、私が活動する地域から比較的近い場所で大きな地震が発生した時のことです。幸い、私たちのシェルター自体に大きな被害はありませんでしたが、道路網が寸断され、物資の輸送が困難になり、周辺の避難所からはペット同行避難に関する問い合わせが殺到しました。
最初の数日間は、まさに情報戦であり、混乱の極みでした。どこで、どのような動物が、どれくらい取り残されているのか。行政の対応は?他の団体はどのような動きをしているのか?刻一刻と状況が変化する中で、正確な情報を得るだけでも大変な労力を要しました。
活動メンバーの間でも、意見が分かれました。すぐに現地に駆けつけるべきだという強い思いを持つメンバーがいる一方で、まずは自分たちの安全確保と、今いる保護動物たちのケア、そして間接的な支援(物資集めや情報発信)に徹するべきだという慎重な意見もありました。どちらの意見も理解できるだけに、どのように方向性を定めるべきか、チームとして動くことの難しさも同時に感じました。
私自身も、目の前の動物たちの世話をしながら、スマートフォンにかじりついて情報収集をする日々でした。遠く離れた場所からできることは限られている。その無力感は、これまでの保護活動の中で感じたどの困難とも違う種類のものでした。
物資を送ろうにも物流が滞り、被災地から助けを求める声が届いても、すぐに駆けつけることができない。行政の対応も、動物までは手が回らないのが現実です。この現実を突きつけられた時、理想とする「全ての命を救いたい」という思いが、いかに個人の、あるいは一つの団体の力だけでは及ばない広がりを持っているのかを痛感しました。
何ができるか、何をすべきか:混乱の中での考察
この経験を通じて、私は災害時における保護活動について深く考えさせられました。「混乱の中で何ができるか、何をすべきか」。この問いへの答えは、一つではないことを学びました。
まず最も痛感したのは、事前の備えの重要性です。シェルターの耐震化、動物たちのための備蓄(フード、水、医療品)、避難計画の策定、スタッフやボランティアの連絡網整備。そして、最も忘れがちですが重要なのは、自分自身の安全と、今預かっている動物たちの安全を最優先にするという冷静な判断基準を持つことです。自分が被災してしまっては、何もできなくなります。
次に、情報の正確な把握と共有です。混乱時にはデマも飛び交います。信頼できる情報源(行政、公式発表、実績のある他の団体など)から情報を得て、それを冷静に判断し、必要な場所に届ける。これも重要な役割だと感じました。
そして、連携です。行政、他の保護団体、地域の住民、専門家など、日頃からの繋がりが、有事の際に大きな力となります。あの時、孤立していたら、できることはさらに限られていたでしょう。情報交換、物資の融通、受け入れ協力など、日頃からの信頼関係が、困難な状況を乗り越える鍵となります。
また、「現地に駆けつける」ことだけが支援ではないことも学びました。遠隔地からでもできることはたくさんあります。寄付の呼びかけ、物資の仕分け・輸送手配、SNSでの正確な情報発信、被災地の保護団体への連絡サポート、そして何よりも、今自分たちの手元にいる保護動物たちのケアを滞りなく続けること。これらは全て、被災地の負担を減らすことに繋がります。
混乱の中で「何ができるか」を考える時、つい「全てを救わなければ」と力んでしまいがちです。しかし、私たちボランティアも人間であり、リソースには限界があります。その限界を知り、できることの中で最善を尽くすこと。そして、できないことに対して、無力感に苛まれすぎないこと。自分自身の心の健康を守ることも、活動を続ける上で不可欠な「備え」なのだと気づきました。
まとめ
災害という非日常的な状況は、保護活動の厳しさを改めて浮き彫りにします。予期せぬ事態への対応、限られたリソース、そして何よりも、目の前で苦しむ命全てを救えない現実。その中で抱える葛藤や無力感は、活動を続ける上で避けられない感情かもしれません。
しかし、混乱の中にも、希望の光はありました。助け合う人々の姿、困難な状況でも動物のために尽力するボランティアたちの存在、そして、無事に保護された動物たちが安堵の表情を見せる瞬間です。
災害時の経験は、私に保護活動の新たな側面を教えてくれました。それは、理想を追うだけでなく、現実を冷静に見つめ、事前の備えを怠らず、多様な「できること」を見つけ、そして何よりも、自分自身と仲間、そして今目の前にいる動物たちの安全を第一に考えることの重要性です。
災害が起こらないことが一番ですが、万が一の時に備え、できることから準備を進める。そして、いざという時には、混乱の中でも冷静さを保ち、「何ができるか、何をすべきか」を問い続け、自分にできる最善を尽くす。それが、保護活動に携わる者として、私自身が大切にしていきたい姿勢です。困難な状況を経て、改めて保護活動の意義深さを感じています。