保護活動数年目。効率を求める自分と、譲れないケアの思い
保護活動における「効率」と「個別ケア」のジレンマ
保護活動を始めたばかりの頃、私の心にはただ一つ、「目の前にいる動物たち一頭一頭に、できる限りの愛情と時間をかけて寄り添いたい」という強い思いがありました。傷ついた心に触れ、それぞれの個性を受け止め、最高の形で次のご縁につなげたい。その理想を胸に、ボランティア活動に飛び込んだのです。
しかし、活動を数年続けるうちに、その理想だけでは立ち行かない厳しい現実があることを痛感するようになりました。保護する動物の数は増え続け、限られたスペース、時間、人手、そして資金の中で、活動全体を効率的に進める必要に迫られます。「目の前の命を救う」ためには、どうしても「効率」という視点が欠かせなくなるのです。
体験から見えてきた現実
例えば、新しい動物が保護されたときのことです。一頭ずつじっくりと時間をかけて健康チェックや心のケアをしたいという思いはありますが、同時に他の多くの動物たちの世話もしなければなりません。限られた時間の中で、食事の準備、清掃、投薬、通院手配など、やることが山積みになります。
特に、病気や高齢、あるいは人馴れしていないなど、より多くの時間と手間を必要とする子が複数いる場合、誰にどれだけ時間をかけるのかという選択を迫られることがあります。一頭に時間をかけすぎると、他の子のケアがおろそかになる。かといって、流れ作業のように効率だけを重視すると、本来その子が最も必要としているであろう心のケアや、些細な体調の変化を見落としてしまうのではないかという不安に駆られます。
かつて、非常に警戒心の強い猫を保護したことがありました。時間をかければ心を開いてくれる可能性を感じていましたが、他の緊急性の高い案件が重なり、十分な時間を割くことができませんでした。結局、その子は最後まで人間に心を許すことなく、シェルターで生涯を終えました。その子のことを思い出すたび、もしあの時もっと時間があれば、と今でも胸が締め付けられる思いがします。効率を優先せざるを得なかった現実と、一頭の命に寄り添えなかった後悔が、心の中で常にせめぎ合っているのです。
また、効率化のために、清掃手順や給餌方法などが標準化されることもあります。それは多くの動物をケアするために必要なことだと理解しています。しかし、その子のその日の体調や気分に合わせて、少しでも心地よく過ごせるように配慮したいという「個別ケア」の思いが、その標準化の中で失われていくように感じてしまうこともあります。小さな抵抗かもしれませんが、「この子にはいつものフードより少し温かい方がいいかな」「今日は少し元気がないから、もう少しゆっくり見守ろう」といった個別の配慮を、可能な範囲で取り入れること。それは、効率だけでは割り切れない、人間として、ボランティアとして譲れない部分だと感じています。
他のボランティアとの間でも、この「効率」と「個別ケア」に対する意識の違いから、意見が衝突することもありました。ベテランの中には、長年の経験から確立された効率的な方法を重視する方もいます。それに対し、一頭一頭との関わりを深く求める方、あるいはまだ活動に慣れていない方は、効率性よりも個別のケアに重きを置きたいと感じる傾向があるように見受けられます。どちらの思いも活動にとっては重要であり、どちらか一方が正しいというものではありません。このバランスをどう取るか、組織として、あるいは個人としてどう向き合うかは、常に課題だと感じています。
葛藤との向き合い方
この「効率」と「個別ケア」のジレンマは、保護活動を続ける限り、おそらく完全に解消されることはないのでしょう。しかし、この葛藤と向き合い、折り合いをつけていくことが、活動を継続していく上で不可欠だと考えるようになりました。
完璧な「個別ケア」は、限られたリソースの中では現実的に難しい。その事実を受け入れることから始める必要があるのかもしれません。そして、「効率」を求めることは、より多くの命を救うための選択であり、決して冷たい行為ではないと、自分自身に言い聞かせています。
その上で、効率化された活動の中に、可能な範囲で「個別ケア」のエッセンスを取り入れる工夫を模索しています。例えば、全体的な清掃時間は守りつつも、特定の高齢の子には休憩時間を長めに取る。多くの投薬が必要な中でも、人馴れ訓練中の子には短い時間でも良いので、触れ合いの時間を設ける。全ての子に完璧はできなくとも、その子の状態や必要性に応じて、優先順位をつけながら、少しでも心を込めたケアを行うこと。それは、私の「譲れないケアの思い」を満たし、この活動を続ける上での心の支えにもなっています。
また、他のボランティアとこの葛藤について話し合うことも重要です。互いの考え方や経験を共有することで、新たな視点が得られたり、自分だけが抱えている悩みではないと知るだけで心が軽くなることがあります。それぞれの立場で最善を尽くそうとしていることを理解し合うことから、より良いバランス点が見えてくることもあるでしょう。
終わりに
保護活動における「効率」と「個別ケア」のバランスは、常に揺れ動く難しい課題です。理想通りにはいかない現実の中で、葛藤することも、自分を責めてしまうこともあります。しかし、このジレンマを乗り越え、自分なりのバランスを見つけていくプロセスそのものが、ボランティアとしての成長に繋がっているのかもしれません。
全ての命に完璧なケアを提供することはできないかもしれません。それでも、限られた環境の中で、できる限りのことを考え、行動すること。そして、その中で動物たちが見せてくれる小さな変化や、ふとした瞬間の信頼を感じたとき、この活動から得られるかけがえのない喜びとやりがいを改めて実感するのです。このジレンマを抱えながらも、私はこれからも動物たちのために活動を続けていきたいと思っています。